胆振東部地震厚真町復興調査-卒業研究-

 こんにちは!学部四年の長尾です.
 皆さんは胆振東部地震をご存じでしょうか.2018年9月に発災し,マグニチュード6.7を記録した北海道胆振地域の大きな地震です.大規模な土砂崩れ,北海道全域でのブラックアウトなど,各地で甚大な被害がもたらされました.私自身も北海道出身なので,当時のことはよく覚えています.今回はその中でも震源地であった北海道厚真町を訪れ,現地調査を行ってきました.
非常に実のある調査となり,すべて紹介したいところですが,特に印象的だった体験をお伝えしていこうと思います!

<災害公営住宅“新町のぞみ団地”>
 災害公営住宅と聞くと,無機質なイメージを持つ方もいるかもしれません.厚真町新町にある“新町のぞみ団地”には,良い意味で期待を裏切られるかと思います.住民同士の交流を促すよう設計されたコミュニティロード,各家に設置された家庭菜園スペース,平屋の上に見える天窓…災害公営住宅でありながら,現在は移住者の方も住んでおり,住まいとして人を引き付ける力があるように感じました.
特に驚かされたのは,その家庭菜園スペースの豊富さです.厚真町は第1次産業が盛んで,なりわいとしても生活の一部としても農業が根付いています.災害公営住宅でも畑ができるよう配慮されており,住民の方にとって重要であることが伺えました.

<厚真町社会福祉協議会インタビュー>
 1日目の午後は,厚真町社会福祉協議会(以下社協)にインタビュー調査を行いました.今回,事務局長の山野下さんにお話を伺うことができ,主に胆振東部地震の生活再建の過程について教えていただきました.
まず,厚真町の復興において特徴的だったことは,災害VCが2年以上継続されたことです.被災者の方や全国のボランティアの窓口となり,住民の方からも名前を変えずに活動を続けてほしいと要望があったため,2020年12月31日まで継続されました.このおかげもあり,「何かあったら社協に」と,平時にも役立つ社協と住民の関係性が構築されたそうです.
また,震災をきっかけとし地域の力が育ったというお話も印象的でした.社協が被災前から行っていた地域サロン活動は,震災を機に一時中断されましたが,住民の交流の場として復活しました.今では,震災後に新しくできたサロンもあります.また,仮設住宅時に行っていた体操教室は,住民の方の自主運営で退居後も継続されました.新型コロナウイルスの影響をうけ,様々なことが分断された時期もありましたが,こうして地域の力,住民の力が育ち交流が途切れなかったことは,大きな成果だったと思います.

<震災体験プログラム>
 2日目の午前は,厚真町観光協会主催の震災体験プログラムに参加しました.今回は,被災地ガイドと講話をお願いしました.
被災地ガイドでは,特に被害の大きかった吉野地区や厚幌ダムを訪れました.土砂の被害があった吉野地区では,現在は植樹が行われていましたが,震災前のもとの姿とは大きく変わっていました.実際に現地に足を踏み入れ,5年の月日が流れてもここまでリアルに被災の様子が伝わってくるのかと,崩れた山肌を目にしながら感じました.
 講話では,厚真町の自然や特産品の紹介から,被害状況の説明等をしていただきました.観光協会としても,勉強会の実施や防災キャンプの試みなど,震災の伝承と今後の防災教育に向けて前向きに活動していることが分かりました.担当の原さんは,東北の語り部のもとへ勉強しに行き,いま厚真町で大きな覚悟をもって活動されています.原さんのような方がいる限り,震災の語りは次世代にまで受け継がれるのではないでしょうか.

<厚真町役場へのインタビュー&日高幌内川砂防事業見学>
 今回,厚真町役場復興推進担当参事の小山さんにお話を伺いました.厚真町役場の復旧~生活再建の対応や,移住・産業育成についてもお聞きしました.
 まず印象的だったのは,北部地域の課題感と遺構についてです.被災地ガイドでも訪れた吉野地区は,地権者が様々であるため,公園化等ができずどのように残していくかが課題になっています.また,日高幌内地区は河道閉塞により大きな被害があり,現在はダムの工事が行われています.これらを遺構として残し,防災の取り組みやエコパークにつなげようと構想が練られている最中です.
 また,移住促進や新たな産業育成など,厚真町にかかわる人が増えていることも印象的でした.取り組みとしては震災前からあるものの,震災を機に復興後の厚真を盛り上げようとしている若い世代が多くいます.
 その後,前述した日高幌内地区のダムの建設現場にお邪魔しました.ダムのさらに奥に行くと,河道閉塞(土砂が川をふさいで流れをせき止めること)の被害によってできた水たまりのような自然のダムが見えます.その一部は,土砂を用い埋め立てられていました.一見のどかで,自然豊かな湖のようにも見えますが,囲まれた山々はいまだ復旧作業が追い付かず震災の悲惨さが伺えます.

<まとめ>
 今回,市古先生と院生4名の協力もあり,非常に内容の濃い調査ができました.私の意図をくみ取りサポートしていただいた皆さんには本当に感謝しています.研究の一環ではありましたが,地元の理解も改めて深まり,北海道がさらに好きになりました.最終報告に向けこれからも精進していきます!

胆振東部地震厚真町復興調査-卒業研究-」への1件のフィードバック

  1. 教員T.I.

    充実の調査,何よりです.
    きちんとした「学術的問い」を模索していたからこその「北海道がさらに好きに」という調査後の感覚に辿り着けたのでは.提出に向けてのスパート,期待してます!

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