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山口県瀬戸内地域の架橋離島調査

 こんにちは!学部3年の高松です.
 2023年12月28日から2日間,地元である山口県東部地域の架橋離島の調査に行って参りました.
 私は平時は本土と繋がっている架橋離島が事故や災害で本土と寸断された際にどのような対策が考えられるかを卒業論文のテーマにしたいと考えています.その中で実際に事故や災害で本土と寸断され孤立状態に陥った下松市笠戸島や上関町長島を実際に目にすることができ,また地元である周南市粭島では鼓南をよくする会の温品徹会長を始めとした方々に貴重なお話を聞かせて頂くなどの得難い経験をすることができました.
初日の28日には,まず2018年7月豪雨で道路が寸断され孤立状態に陥った下松市笠戸島に訪れました.笠戸島では本浦地区や深浦地区などの美しい漁村集落をみることができました.一方で集落内にある小学校が公民館になっているなど,過疎化が進行している状況もみることができました.そのような中で集落内には地域担当者制度と書かれた職員の顔写真付きのポスターが貼られており,下松市が顔の見える地域支援を行っていることには驚きました.
また2018年に起きた土砂災害の爪痕もみることができ,道中では大規模な崩落防止工事が行われていました.そして2018年豪雨で物資輸送の拠点となった新笠戸ドックでは,巨大なコンテナ船が建造されており,その迫力に驚きました.
 その後2021年の事故で橋が一時期通行止めとなった上関町長島に訪れました.長島では美しい石壁と,家々が密集した漁村集落の様子をみることができました.また長島は島の先端部が放射性廃棄物の中間貯蔵施設建設予定地とされており,様々な議論が行われていますが島内の集落にはこの建設を巡るポスターや横断幕が一つもないのには驚きました.その後は海岸線に浮かぶ美しい夕日を眺めながら周南市中心部へと戻りました.
 2日目は地元であり,2006年の豪雨によって一時孤立状態に陥った周南市粭島に向かいました.道中では日本精蝋徳山工場の石油タンクが連なっている様子を見ることができました.また粭島島内では,丁度移動販売車がやってきており住民の方々が買い物をされていました.
 その後,鼓南をよくする会会長である温品徹さんが経営されているホーランエー食堂にて温品さんにインタビューをさせていただきました.温品さんは粭島を含む鼓南地区で地域の困りごとを解決し,地域を盛り上げていこうとする鼓南をよくする会の会長をされており,約30名が所属しているとのことです.まず地域の困りごとを解決するという点では,お助け隊という有償ボランティアを運営されており,耕作放棄地の草刈りから台所仕事まで地域の人の困りごとの解決に取り組まれているそうです.また地域を盛り上げる活動では,島の対岸にある日本精蝋とコラボしたカレンダーの作成や,大豆から栽培する味噌づくり,竹灯籠の作成などを行われているそうです.一方で取り組みの課題として,温品さん以外に地域に積極的に関わる人を増やすことを挙げられていました.私も一人の力では限界があることから,粭島に限らず地域を盛り上げる際には多くの人が積極的に関わっていくことが重要であると感じました.また温品さんは消防団にも入られていることから,鼓南地区の消防団活動や防災についてもお話を聞くことができました.まず消防団については,鼓南地区に居住しており仕事場も鼓南地区内であれば加入することができるなど,非常に開けた運用がされていることに驚きました.一方で防災については,2006年の災害では早期に船による輸送がおこなわれたことから孤立したというイメージはないというのが印象的で,孤立時における海上輸送の重要性を理解することができました.
 次に2006年の災害当時に粭島の連合自治会長をされていた高松順輔さんにお話を聞くことができました.順輔さんは2006年の災害対応について詳細に語ってくださり,また当時の対応について行政に対して問い合わせもしていただきました.一方で近年の課題としては,台風などの災害時の避難先が島内の粭島市民センターではなく大島市民センターへ避難しなければならなくなり高齢者等の避難が難しくなっているというお話を聞くことができました.
 最後に現連合自治会長の香川里ひろさんにお話を伺う事ができました.香川さんは連合自治会長として防犯灯の管理や台風時の防波堤管理,市議会議員への陳情等を行われているということでした.その中で,市から依頼された仕事が多い一方で市からの報奨金が年数万円であるということに対して,自治会に対する人,お金の援助を強く求められていたのが非常に印象的でした.
 今回の調査においては,インタビュー場所を提供してくださり順輔さんや香川さんに連絡を取っていただくなど温品徹さんに大変お世話になり感謝申し上げたいと思います.また,インタビューの中では香川さんの災害対策はお金があれば無限にできると言われていたのが非常に印象に残りました.しかしながら粭島を始めとする多くの地域では地形や予算,人員不足の問題により代替路の確保や避難所に課題を抱えているところが多いと実感することができました.調査を行ってから僅か数日後に発生した能登半島地震においても,道路の寸断が発生し多くの孤立地域が発生しました.そうした中において,海上を活用した物資の輸送などの孤立地域へのいち早い援助の仕方や,人口が少ない中での避難所運営などを考えていく必要があると強く感じました.
 初めてのブログ投稿で拙い箇所も数多くあったかと思いますが,最後まで読んでいただきありがとうございました.

2023年の年末の研究室

 はじめまして!市古研究室修士1年の山口です.
 今回は,年末の研究室における学生の頑張りをお伝えしたいと思います.
現在,市古研究室には来年3月末に卒業を控えた学部4年生と修士2年生が計8人います.その学生たちは,卒業及び修士論文の提出に向けて,朝早く登校し,夜遅くまで自身の研究の最終追い込みを行います.私もその姿を見習って残りの1年3か月を頑張りたいと思います.

 さて,研究室では自分の研究以外にも大田区羽田地区の事前復興まちづくり訓練における,学生からの復興まちづくり提案を行っています.このプロジェクトは,上記の学生に加え,学部3年生と修士1年生も参加し,計14人態勢で行っています.昨年度から始動していたこのプロジェクトは,この12月に学生からの提案の本発表ということで現在大詰めを迎えました.そのため,論文を作成している学生以外にもほとんどの学生が昼夜問わず作業をし,時には熱いディスカッションを行っていました.そして,本番では各提案について,満足のいく発表をし終えることができました!本当に皆様お疲れさまでした,ありがとうございましたm(__)m

 また,12月18日には私の研究の一環であるスタンドパイプによる消火訓練を行いました.当初は,時期も時期なので参加人数は限られてくると思いましたが,多くの研究室メンバーに参加していただき,無事終えることができました.

 そう,これが市古研究室のいところ.みんなが一人のために,一人がみんなのために動けること!これは,なかなかできることではなく,とても素晴らしいことだと思います.
そんなこんなで,市古研究室は年末も活発に活動しております.
大変な時も,どんな時も,市古研究室メンバー全員で支えあって頑張ってます!!

気仙沼鹿折まちづくりワークショップ・アクションリサーチ

 こんにちは!学部3年の伊東です.
 2023年10月,宮城県気仙沼市を中心に2日間調査に行って参りました.東日本大震災後,私は初めて東北へ足を運ぶことができました.大学での講義等を経て学んだこと・その地域を実際に目で見ることができ,とても貴重な体験となりました.

 10月28日の午前中は世界文化遺産に登録されている中尊寺を訪れました.3000点以上の国宝・重要文化財がある中,金色堂の迫力には圧倒されました.東北が誇る財産を短い時間ながらも堪能することができました.
 次に陸前高田市まで移動し,いわてTSUNAMIメモリアル周辺を探索しました. 私含め,学生一同は時間を忘れてしまうほど美しい海を眺めていました.ただ,少し視線をずらしてみると津波の犠牲者を追悼する献花台が設けられていました.心の準備はしていたものの,少し心が締め付けられる感覚がありました.堤防を歩くとすぐに奇跡の一本松が姿を現し,復興のシンボルとして大切に保存整備されていました.松の下では,手を合わせて復興を祈る方も見受けられました.そんなモニュメントから歩いて数分の場所に気仙沼市立中学校があります.震災当時,当中学校には屋上を超える津波が襲いました.私はデータ上の数値を調べた印象よりも,残された建物や記録から受け取るイメージはより恐怖を感じました. 綺麗な風景と震災の記憶はかけ離れた存在であり,照らし合わせることは簡単ではありませんでしたが,調査員一人一人が何かを感じて持ち帰ることができたと思います.

 初日の最後は気仙沼大島を訪れました.天気にも恵まれ,亀山展望台では気仙沼湾をはじめ海岸の大パノラマを満喫することができました.展望台までは険しい道が続いていたので,途中で休憩を挟みながら,そして学生同士で楽しくコミュニケーションをとりながら山頂を目指しました.気仙沼は2021年前期放送の連続テレビ小説「おかえりモネ」の舞台であることから,山頂では関連したBGMが流されていました.ゆったりとした曲調は感動的な眺望と調和しており,心地の良い時間を過ごすことができました.

 2日目の午前中は鹿折まちづくり協議会が実施する「東中才防災まち点検・防災ウォークラリー」に参加させていただきました.まち点検では,地域内の危険な場所を実際に見て確認し合い,地図上に危険個所をマーキングし,改善のアイデアを話し合います.最終的に地域全体で点検の結果を共有し,質疑応答を行うことによって,地域への理解を深めていました.私の担当ではありませんでしたが,ウォークラリーでは小学生と一緒に通学路の危険スポットを巡り,各チェックポイントにおいて災害に関係したクイズを出題することで,年齢に関係なく防災を知ってもらう機会となりました. このように地域全体を巻き込んで,住んでいる地域の危険性を共有し合い,またその対策を行政に任せるのではなくまずは地域で対応できる力を身に付けるという姿勢は今後のまちづくりの在り方として重要な点であると思いました.結果的に地域内でのコミュニケーションが増えるだけでなく,地域を知り,街への愛着も根付いていくとも私は感じました.

 その後,気仙沼の海岸に沿って南下しました.まず災害公営住宅である長磯浜住宅地を散策しました.今回の調査の責任者である市古教授は長磯浜の復興まちづくりに大きく携わっており,当時の状況を住宅地を周りながら解説していただきました.
 その後車で数分の場所に位置するお伊勢浜に向かいました.震災以前は環境庁の「海水浴場百選」の1つに選ばれるほど賑わっていた海でした.今回の調査では数人がサーフィンしている姿を見かけ,復興の兆しを目にすることができました.
そして調査の締めくくりとして大谷海岸を訪れました.道の駅は深海誠監督の「すずめの戸締り」の舞台ロケ地であり,聖地巡礼のような形になり,私自身とても興奮しました.大谷海岸は砂浜再生まちづくり事業として,減災機能を向上しつつ地域コミュニティの醸成に成功した事例として有名です.計画では行政に対して住民も積極的に意見交換を行い,両者が並走して事業を進めていくことができました.夏には海水浴場として多くの観光客が集まり,憩いの場として人気のスポットにもなっているようです.

 私は今回の調査で改めて被災地に出向いて,震災遺構や記録から自分なりに何かを考え,持ち帰ることの大切さを学びました.自らが進んで獲得した知識や思いはそう簡単には離れません.正常性バイアスの考えから,常に防災意識を持つことは難しいといわれています.ただその現地での思いが残っているのであれば,ふとした時にさらに深く考え,行動に移すことができると思います.結果として防災意識が向上し,災害の際に活かせるはずです.
 初めてのブログ投稿となりました.拙い文章でしたが,最後まで読んでいただきありがとうございました.

以下,参加メンバーの「感想レポ」

  • 二日間を通して多くの場所に訪れましたが,陸前高田が最も印象深かったです.旧:陸前高田市立気仙中学校とタピック45はどちらも建物上部にまで津波が到達したことから,当時の津波の威力を改めて実感することができました.しかし,旧:陸前高田市立気仙中学校は日ごろの避難訓練,タピック45は避難設備により犠牲者が出なかったため,日ごろの備えによって得られた実績も同時に実感することが出来ました.今回は事前学習会の実施により,概要を知ったうえで見学することができ,去年よりも良い震災遺構見学を行えました.皆様,事前学習会の準備ありがとうございました.防災まち点検だけでなく,防災ウォークラリーも通して,多様な世代間で交流することができたため,今回の鹿折ワークショップは,将来の鹿折地区のまちづくりを考えることに貢献することができたのではないかと思います.今回も含めた防災まち点検の成果は仕上げるので,来年以降も,特に今回初参加となったB3と研究生には,研究室での重要な活動の一つとして関わり続けてもらいたいです(T.S.)
  • 皆さんお疲れ様でした.この2日間でいろいろなところに行けて,とても勉強になりました.【中尊寺】14,15年ぶりに行きました.高校では日本史を選択していたので,復習してから行けばよかったなと思いました.旅の始まりにパワーをもらえた気がします.【陸前高田】メディアではよく見る一本松ですが,実物を見たのは初めてです.津波の威力の強さを感じました.【大島】架橋されているおかげで,好きなタイミングで好きな時間だけ訪問・滞在することができましたが,フェリーしかなかったとき,特に災害時は大変だっただろうなと思います.今回は橋を利用しましたが,船でも行ってみたいと思いました.【内湾】熊本とはまた違った復興住宅が見学できました.公民館のような,地区の住民の交流スペースが熊本よりも少ないと感じました.また,庭に漁の道具が置いてある家も多く,漁師町であることが伝わってきました.【お伊勢浜】去年は伝承館の屋上から眺めるだけでしたが,今年は海に近づくことができてよかったです.海の色の感じや,海水がベタベタする感じが東北の海だな~~と思いました.また,堤防を上がったり下りたりしたので,堤防の大きさも実感しました.駐車場にはサーフィンをしに来た人もいて,海水浴場としての一面を見ることもできました.【大谷海岸】お伊勢浜との違いは海と人との距離の近さにあると感じました.道路や道の駅,BRTが近くにあり,海と賑わいの結びつきがみられるエリアだと思いました.震災前も観光地として栄えているエリアだったようなので,その雰囲気との連続性があって良いと思いました(H.W.)
  • 昨年は西中才地区のまち点検に参加させていただいきましたが,今年度は小中学生とその保護者の方を対象とした防災ウォークラリーを担当しました.去年とは違った内容でしたが,様々な世代を巻き込んで行うことも地区のコミュニティ維持には必要なんだなと改めて感じました.被災した方の体験談を直接お聞きするのは初めてでした.70代でも防災士の講座を取るなど,とても意欲的で,こちらが逆にパワーをもらったような気がしました.時間の関係でおひとりの方の体験談のみでしたが,また機会があれば体験談を聞いてみたいなと思いました.島雄幹事ありがとう!去年行けなかったところも行けてとても勉強になったし,B3とも親睦が深められてよかったです.2日間お疲れさまでした!(N.K.)
  • ワークショップ,東中才地域だけで40人前後が集まっており,その世代も様々なことに驚いた.地域の高齢者が若い世代に受け継ごうとする熱を感じて,それを若い人や子供たちも楽しみながら享受できている点に感動した.印象的だったのは,震災経験者の方の,地球の原理を理解するというお話だった.日本で生活する限りは地震とは切ることができないので,受け入れつつも最小限の被害に抑えることが重要であり,そのための努力が行われている地域だと思った(H.N.)
  • 東北地方自体が初めてだったので,全てのことが新鮮だった.教科書やテレビでしか見たことがなかった建物や地域から震災当時の様子や津波の威力の恐ろしさを実感できる良い機会となった.お伊勢浜と大谷海岸ではそこまで距離が離れていないのにも関わらず,防潮堤の雰囲気や圧が全く異なっていて住民の方の地域への思いを感じられてた.一人ひとりの「自分にも何かできないか」という気持ちが地域全体を良くしていくことにつながるということをワークショップを通じて実感した.まずは自分たちが住む地域を知ることで,危険な箇所も含めて,地域を好きになることができるということが印象に残っている(H.S.)
  • 大島展望台の登山過程は忘れられないが,頂上に登って見た景色はもっと忘れられない.秩序ある陸路,スムーズな高架橋,精神的産業などを見ました.私はyoutubで関連する紹介ビデオを見たことがあります.異なる年の同じ機位の展示,復興の歴史の果実,私は展望台で本当に見て,とても衝撃的でした.会議に参加した市民たちは積極的で情熱的で,中国ではこのような活動は極めて少なく,私も初めて参加しましたが,定期的な意見交換は非常に必要であり,非常に意義があると思います(S.K.)
  • 陸前高田には去年も訪れたが,旧気仙沼中学校などの震災遺構は見ることが出来なかったため今回見ることができて良かった.特に旧気仙沼中学校では屋上まで津波が達していたことが分かり,津波の恐ろしさを実感できた.防災まち点検では水害対策上の課題を中心に見て回ったが,近年では豪雨災害が頻繁していることから通水路の拡幅などの対策を行うことは重要であると考えた.また,2012年に土砂災害により孤立が発生したとの話も聞くことができたが,孤立した際の支援方法も考える必要があると感じた.まち点検から帰ってきた後は,危険な箇所や改善点等を地図上にポストイットで記入し貼り付ける手伝いをしたが,自分の手際が悪くスムーズに行うことが出来なかったため来年以降の改善点にしたい(S.T.)

大田区羽田 事前復興まちづくりProject第1回WS

 皆さんこんにちは,修士2年の松澤・大野です.
 先日2023年9月5日,市古先生・博士課程卒業生1名を含めた研究室メンバー11名で,「羽田地区(羽田1~6丁目) 事前復興まちづくり訓練」の第一回の開催・運営に従事しました.研究室としての当訓練への関わりは,本年6月に実施したガイダンスから継続しています.「訓練」と名前はついているものの,実際は地域住民を巻き込んだワークショップの様な形態です.大田区さん・コンサルタントの地域計画連合さんを中心とし,研究室としては「学生らしい防災まちづくり提案」を目指し,三者一体となってこの訓練を運営しています.市古先生によると,研究室からの学生提案を含むプロジェクトはコロナ前以来だそう.勿論現在籍メンバーにとっては初めてであり,不安もありつつも気合の入ったプロジェクトです.
 今回は,ガイダンス含む全4回の訓練のうちの2回目.研究室としては,まちづくり提案の方針をお披露目し,参加者や大田区さん,RPIさんらからたくさんのフィードバックを頂くことが目標でした.当日参加できたメンバーは11名ですが,実はこの訓練に向けては,研究室全員一丸となって多くの時間をかけて準備してきました.

 研究室として用意したものは①研究室からみた羽田の街を表現した「羽田ってこんな街だよね!MAP」②提案内容を示すプレゼンボード③提案の対象地の模型の3種類です.①は研究室全体の意見をM2松澤さんを中心にまとめ,②③は提案内容ごとに4班に分かれて作成しました.
 ①「羽田ってこんな街だよね!魅力資源MAP」と「もっと羽田をこうしたい!」提案資料は,研究室でのまち歩きをはじめとした事前学習を通し,各々が感じた「羽田の街の姿」「羽田の魅力あるスポット」を洗い出し,手書きのイラストと共に見やすくまとめたもの.手に取った人に一目で羽田の街の雰囲気が伝わるようなMAPを目指しました.

 ②各班の提案内容を示すプレゼンボードは,各班が現時点での提案内容をまとめたもの.提案内容を考える際には,班の枠を超え日々研究室内で活発な議論がされました.実現可能性や羽田の街の将来像など,様々な視点から議論を重ね,各々の街への想いが反映されたプレゼンボードとなりました.

 ③各班の提案の対象地の模型(路地班,水辺班,高架下班)は,主に班ごとで作成しました.初めて建築模型を作成するメンバーも多い中,建築学科出身者を中心に,各班の提案の空間像が伝わるような模型作りに励みました.今回の段階では建物や道路のボリューム模型に留めたものの,12月の訓練ではより詳細な部分までの作りこみを予定しています.

 こうした資料の作成のため,研究室としては週に一度ミーティングをし,各々の作業の進捗報告や目標設定を逐一話し合いながら地道に進めてきました.就職活動や研究との兼ね合い,日々の夜遅くまでの作業など多くの苦労を乗り越え,成果物を作り切りました.
当日は,約40名の対象地域内の住民の方にご参加いただきました.
 まずは,羽田地区の特性や訓練用被害想定についての説明があった上で,個人ワークでのアイスブレイクを行いました.各自が「羽田3,6丁目在住の72歳男性」になりきり,被害や生活の設定から,仮住まいや自宅再建をするか否かなど「住まいの復興」について考えました.短い時間のなかで考える難しさが,リアリティのあるワークでした.

 その後,お時間をいただき,テーマごとに別れて学生提案の説明と,住民の方とのディスカッションを行いました.
 現況模型やプレゼンボードを起点に,「今ある課題を解消して行くにあたって,譲れるところと譲れないところは何か」など,自由な意見交換がされていたのが印象的でした.また,「昔と今で,こんな変化があった」など,住民のみなさんだからこそ知っているエピソードを教えていただき,羽田地区への理解が高まりました.
 研究室メンバーで協力し,コツコツと準備を重ねて来たため,参加者のみなさまが興味を持って発表を聴いてくださったこと,たくさんのご意見をいただけたことが,とても嬉しかったです.

 最後に,居住地域の近い人同士で班分けをし,発災直後→避難生活→応急・復旧期→復興期の4つのフェーズに分けて,「地区の課題や,被災後にも残していきたい魅力」について話し合いました.木造密集地域ならではの地震時の火災や,避難時の道路閉塞,避難所生活に対する不安が多く挙げられた一方,地域コミュニティの強さや,かつて漁港として栄え地域を支えた多摩川が地域の魅力であることがわかりました.
 今回出された意見が「地域の現状把握」として,事前復興まちづくり計画作りにおけるベースとなっていきます.

<参加学生から>

  • 「住民は一貫してこのゆったりとした空気の流れる羽田の街が好きである.それはすごく感じたので,羽田の街が好きだからこそ,防災もしっかりやりたい!という想いに繋げられるといいなと感じた」
  • 「今後ハード整備が進んだとして,それで安心して終わりにするのではなく,その改善された街で住民がどう動いていくべきかというところまで深められるといいなと思った」
  • 「普段我々が調査で多くの災害公営住宅を視察し,またその設立経緯を学んできたことが今回個人的には結構活かされたなと感じた.災害公営がどんなものなのか,どんなデザインがあるのか,どれぐらい建つまで時間がかかるのかなど.普段の学びが行かせたのは嬉しい.」

 …などの声が上がり,学生提案やWSの進行補助を通じて,地域防災の現場から多くのことを学ばせていただきつつ,自分たちの学びを発揮できた貴重な機会となりました.
 今後は,今回のワークショップでいただいた意見等を参考に,再度現地調査を行い,学生提案のブラッシュアップを行っていきます.WSの補助についても,引き続き関わらせていただく予定です.
 次回は12月…論文の提出や中間発表を控えた時期ではありますが,研究室メンバーで協力しながら頑張っていきましょう!

胆振東部地震厚真町復興調査-卒業研究-

 こんにちは!学部四年の長尾です.
 皆さんは胆振東部地震をご存じでしょうか.2018年9月に発災し,マグニチュード6.7を記録した北海道胆振地域の大きな地震です.大規模な土砂崩れ,北海道全域でのブラックアウトなど,各地で甚大な被害がもたらされました.私自身も北海道出身なので,当時のことはよく覚えています.今回はその中でも震源地であった北海道厚真町を訪れ,現地調査を行ってきました.
非常に実のある調査となり,すべて紹介したいところですが,特に印象的だった体験をお伝えしていこうと思います!

<災害公営住宅“新町のぞみ団地”>
 災害公営住宅と聞くと,無機質なイメージを持つ方もいるかもしれません.厚真町新町にある“新町のぞみ団地”には,良い意味で期待を裏切られるかと思います.住民同士の交流を促すよう設計されたコミュニティロード,各家に設置された家庭菜園スペース,平屋の上に見える天窓…災害公営住宅でありながら,現在は移住者の方も住んでおり,住まいとして人を引き付ける力があるように感じました.
特に驚かされたのは,その家庭菜園スペースの豊富さです.厚真町は第1次産業が盛んで,なりわいとしても生活の一部としても農業が根付いています.災害公営住宅でも畑ができるよう配慮されており,住民の方にとって重要であることが伺えました.

<厚真町社会福祉協議会インタビュー>
 1日目の午後は,厚真町社会福祉協議会(以下社協)にインタビュー調査を行いました.今回,事務局長の山野下さんにお話を伺うことができ,主に胆振東部地震の生活再建の過程について教えていただきました.
まず,厚真町の復興において特徴的だったことは,災害VCが2年以上継続されたことです.被災者の方や全国のボランティアの窓口となり,住民の方からも名前を変えずに活動を続けてほしいと要望があったため,2020年12月31日まで継続されました.このおかげもあり,「何かあったら社協に」と,平時にも役立つ社協と住民の関係性が構築されたそうです.
また,震災をきっかけとし地域の力が育ったというお話も印象的でした.社協が被災前から行っていた地域サロン活動は,震災を機に一時中断されましたが,住民の交流の場として復活しました.今では,震災後に新しくできたサロンもあります.また,仮設住宅時に行っていた体操教室は,住民の方の自主運営で退居後も継続されました.新型コロナウイルスの影響をうけ,様々なことが分断された時期もありましたが,こうして地域の力,住民の力が育ち交流が途切れなかったことは,大きな成果だったと思います.

<震災体験プログラム>
 2日目の午前は,厚真町観光協会主催の震災体験プログラムに参加しました.今回は,被災地ガイドと講話をお願いしました.
被災地ガイドでは,特に被害の大きかった吉野地区や厚幌ダムを訪れました.土砂の被害があった吉野地区では,現在は植樹が行われていましたが,震災前のもとの姿とは大きく変わっていました.実際に現地に足を踏み入れ,5年の月日が流れてもここまでリアルに被災の様子が伝わってくるのかと,崩れた山肌を目にしながら感じました.
 講話では,厚真町の自然や特産品の紹介から,被害状況の説明等をしていただきました.観光協会としても,勉強会の実施や防災キャンプの試みなど,震災の伝承と今後の防災教育に向けて前向きに活動していることが分かりました.担当の原さんは,東北の語り部のもとへ勉強しに行き,いま厚真町で大きな覚悟をもって活動されています.原さんのような方がいる限り,震災の語りは次世代にまで受け継がれるのではないでしょうか.

<厚真町役場へのインタビュー&日高幌内川砂防事業見学>
 今回,厚真町役場復興推進担当参事の小山さんにお話を伺いました.厚真町役場の復旧~生活再建の対応や,移住・産業育成についてもお聞きしました.
 まず印象的だったのは,北部地域の課題感と遺構についてです.被災地ガイドでも訪れた吉野地区は,地権者が様々であるため,公園化等ができずどのように残していくかが課題になっています.また,日高幌内地区は河道閉塞により大きな被害があり,現在はダムの工事が行われています.これらを遺構として残し,防災の取り組みやエコパークにつなげようと構想が練られている最中です.
 また,移住促進や新たな産業育成など,厚真町にかかわる人が増えていることも印象的でした.取り組みとしては震災前からあるものの,震災を機に復興後の厚真を盛り上げようとしている若い世代が多くいます.
 その後,前述した日高幌内地区のダムの建設現場にお邪魔しました.ダムのさらに奥に行くと,河道閉塞(土砂が川をふさいで流れをせき止めること)の被害によってできた水たまりのような自然のダムが見えます.その一部は,土砂を用い埋め立てられていました.一見のどかで,自然豊かな湖のようにも見えますが,囲まれた山々はいまだ復旧作業が追い付かず震災の悲惨さが伺えます.

<まとめ>
 今回,市古先生と院生4名の協力もあり,非常に内容の濃い調査ができました.私の意図をくみ取りサポートしていただいた皆さんには本当に感謝しています.研究の一環ではありましたが,地元の理解も改めて深まり,北海道がさらに好きになりました.最終報告に向けこれからも精進していきます!

2023前期納会&B3歓迎会

 こんにちは!学部4年の島雄です.8月3日,研究室メンバーと新たに研究室に所属する
学部3年とで,前期納会&B3歓迎会を開催しました!
 今年も昨年同様,デジキューBBQテラスアリオ橋本店でBBQをしました.まずは,2班
に分かれて食べ物と飲み物を買い出しに行きました.食べ物はお肉だけでなく,焼きそば
,ソーセージ(学部3のチョイスにより香薫),マシュマロなど.飲み物はビールやほろ
よいなどをメインに,お茶や水を含め,各々が好きなものを買いました.
 乾杯により開宴!学部3年の研究室でのニックネームを決め,研究室メンバーから学部3
年だけでなく,学部3年から研究室メンバーへも,お互いの好きなことなど色々なことを
話して大盛り上がり!会が進むにつれ,先生と話す人,お酒を飲んでいるために普段の研
究室での会話とは一味違った話をする人,会話しながらひたすらご飯を食べる人など,マ
イペースだけど仲のよい研究室の色が出始め,学部3年もすでに現役メンバーであったか
のように溶け込んでいました.
 これからは,個人の研究はもちろんのこと,羽田や上柚木といった研究室全体で取り組
まなければならないことが山積みです.この会を通してリフレッシュできたと思うので,
夏休みや後期もさらに精進して行きたいと思います!

大田区羽田Projectのキックオフ

こんにちは!修士1年の天神です.
今年から市古研究室で取り組んでいる「大田区羽田地区プロジェクト」について,6月に事前復興ワークショップガイダンスを開催しました.今回はこれを踏まえた報告をします.

<羽田地区について>
みなさん羽田と聞いて何を思い浮かべますか?そうです!羽田空港です!!
このプロジェクトの対象地は羽田空港のすぐ近く,羽田1~6丁目で行います.この地域には神社や河川,商店街など様々な資源が存在しています!これらをさらに魅力的に,かつ防災面も考慮したまちづくりを行おうというのが活動の簡潔な説明になります.

ではなぜ,この地域で事前復興を行う必要があるのでしょうか?この地域は昔から住人同士のコミュニティが活発で互いに助け合って生活しています.しかしその反面,住宅の距離が極端に近く,人ひとり通るのがやっとなほど狭い路地や二項道路(幅員4m以下),空き家問題などが山積しています.この状態で仮に火災が発生したら街はどうなるでしょうか,,,?延焼火災によって被害が拡大し,大変な犠牲が発生することが予想できます.
こうならないために市古研究室として協力し,まちづくりにかかわらせていただいております.

<ガイダンスでの成果>
 これまで何度も大田区と街づくり協議会と会議を重ね,6月にガイダンスを開催しました!ここでは市古研究室として作成した「魅力マップ」を配布し住人の方々に見ていただきました.そのうえで住人の方々にも自身が思う羽田地区の魅力をポストイットに記載いただき,大きなマップに張り付けていきました.
個人的に,こういった活動ではあまり意見は出ないのではないか,,,と心配していたのですがそんなこともなく,貼るところに困るくらい魅力が集まりました!事前に学生が考えた魅力と同じなものもあったり,住人にしかわからない魅力があったり,深ぼればもっと面白い魅力が出てくるのではないかと思いました!

<今後について>
 今後は9月に開催される次回WSに向けて準備していきます!現在はガイダンス時に集めた魅力と学生の感じる魅力を項目化し,具体策を考えています!
 各項目ごとに魅力の性質が異なるのでそれぞれどんな提案が出てくるのか楽しみです.

市古研究室のアナログ文化!?

 こんにちは!学部4年の渡邉です.今回は「アナログ」をテーマに,八武崎さんに引き続き,研究室の日常をお届けします.突然ですが,皆さんは大学の研究室と聞くとどういった光景を思い浮かべるでしょうか?

 市古研に配属されるまでの私は,「研究室」というと中学高校の理科室みたいな,実験器具が並んだ部屋みたいなものを想像していました.でも,この学生室のドアを開けて目に飛び込んでくるのは8台のパソコンです.部屋の面積に対するパソコンの多さに,ほかの研究室に所属している学生からはよく驚かれています.
 市古研の学生は,研究にあたって統計ソフトや地図データを活用することが多いです.そこで活躍するのが,このパソコンというわけですね!そのほかにも,資料や情報の共有はオンラインで行っていますし,隣にある先生の研究室からはオンライン会議の声が時折聞こえてくるなど,昨今のデジタル化に対応した研究室ライフを過ごしております!!

…では,なんでわざわざ「アナログ」を強調したのでしょうか?論文を印刷して読む派がいるから?パソコンに負けず劣らず,本棚にもたくさんの本があるから?ワークショップで紙の地図を使うから?間違いではないですが,ここでは「『市古研の日常』に溶け込むアナログ文化があるから.」ということについてお伝えしていきたいと思います.
  まずは,スタンプカードをご紹介します.簡単に言うと,夏休みのラジオ体操のスタンプカードのようなものです.そもそも,市古研にはコアタイムなどの決まりは無く,みんな自分のペースで研究を進めています.それでも研究発表の日は自分に合わせてやってこないのが現実なので,自主的に研究室に通って作業しなくてはいけません.そこで,研究室に来るモチベーションのために作られたのがスタンプカードです.この制度を提案したときは,いつまで続けられるかなと思っていたのですが,昨年10月から現在まで参加メンバーを増やしつつ半年続いております!
 続いて,絵日記ノートをご紹介します.学生が思い思いに書き込んでいるノートを開いてみると,市古研の学生という一面だけではない,大学生・大学院生の日常をのぞき見している感覚になります.無記名で日記を書いている人もいるので,誰が書いたのか予想しながら読むのも楽しいですよ!

 このような感じでデジタルの便利さとアナログの温かみに囲まれた研究室で,毎日楽しく仲良く過ごしています!

研究室の日常(2023/5月バージョン)

初めまして!2023年度前期ゼミ長の修士2年八武崎です!

今回初めてブログを執筆させていただきます.4月は研究室行事や大きなイベントがない代わりに,研究室メンバーが新しくなりました.市古研究室に所属したい方向けに,市古研究室の基本情報と,新メンバーで作られる研究室の魅力を伝えたいと思います.

<研究室について>

市古研究室は9号館5階にあり,先生がいる研究室と学生がいる学生室の2部屋で1セットになっています.学生室にはデスクトップが8台とモニターが2台設置されていて,YouTubeを流し見しながら研究する学生や,音楽を聴きながら研究する学生など思い思いに研究を進めています.研究に行き詰った時は,隣の部屋にいる市古先生がいつでも相談にのってくださるので安心です!

<研究室のメンバー>

現在,市古研究室は修士2年が4名,修士1年が3名,学部4年が4名,研究員が1名の計12人で構成されています.市古先生は震災復興プロセスや事前復興まちづくりをテーマに研究しているため,所属する私たちも都市防災や災害リスクについて研究しているメンバーが多くいます.先月,限定公開で公表させていただいた研究室PRの動画でも分かるようにみんな明るく個性あふれるメンバーでとても過ごしやすい研究室になっています!

<研究室ゼミについて>

市古研究室は隔週の木曜日に研究室ゼミを行っており,そこでは自分の研究の進捗や今後の研究室行事について話し合っています.学生同士で意見交換をしたり,先生にアドバイスをいただいたりと,とても充実したゼミとなっています!ゼミ後はみんなで昼食をとり,和気あいあいとし過ごしています.

 このゼミ以外にはコアタイムがないため,研究室メンバーは好きな時間に研究室を活用しています.今回執筆させていただいている私は完全に夜型!20時に研究室に来て,朝まで研究室にいることもありました.そんな時の5階のベランダからの朝焼けは格別で疲れも吹き飛んでいきます!

<フィールドワークについて>

 Activity Blogにもあるように,市古研究室では年に数回フィールドワークに行きます.実際にまちを歩いたり,災害を経験された方や復興に携わった方などからお話を伺ったりすることで,本には書かれていない情報に触れることができるため,とても有意義なものとなっています.今年度は2018年の胆振東部地震で被災した厚真町と,2000年の雄山噴火で被害を受けた三宅島へ調査に行く予定です.

<懇親会について>

 研究室行事後やフィールドワーク後には懇親会をすることもあります.カジュアルな雰囲気でお酒を飲んで談笑することで,ワーク中に思いついても言えなかったことやくだらない話などで盛り上がります!お酒の力を借りて市古先生に恋愛相談にのってもらうこともありました!今となっては恥ずかしい思い出です.笑

<おわりのあいさつ>

4月は研究室行事や大きなイベントがない代わりに,研究室メンバーが新しくなったので,研究室の基本情報と研究室の魅力について紹介をさせていただきました.市古先生をはじめ,研究室メンバーはとても賑やかで明るく活気のある研究室になっていますので,気になった方はいつでも研究室見学を歓迎しますので,是非遊びに来てください!

熊本・球磨川 復興と風景のナラティブ調査

 こんにちは!4月より修士2年となりました,大野・松澤です.
2023年2月に,研究室メンバー・OBOGで熊本調査に行って参りました.昨年度博士号を取得された研究室OBの平木さんが,熊本地震における避難所の研究をされていた一方,熊本を初めて訪れる学生がほとんどで,念願の熊本調査でもありました.また3日間で5名の方にヒアリングをさせていただくことになり,事前学習会を2日間にかけて行うなど,綿密な準備を行いました.平成28年熊本地震と,令和2年7月豪雨災害の被災地は,未だ復興途中にあります.その中で,多くの関係者の皆様にご協力いただいたことで,現地を訪れることができ,大変貴重で,大きな実りのある調査となりました.

1日目

西原村山西団地

 熊本に到着後,まず熊本地震で被害が大きかった西原村の災害公営住宅団地「山西団地」を訪れました.事前に図面を閲覧していましたが,特徴的な住戸デザインとみんなの家に,学生は興味津々でした.住民の方がお話されている光景も目にし,各住戸が街区にばらけて表と裏が交互になった配置だからこそ交流しやすい面がありそうだなと感じました.

熊本YWCA 丸目陽子さん

 次に,熊本地震と豪雨災害において避難所運営を担われていた,熊本YMCAの丸目陽子さんをたずね,「YMCAが災害支援を開始した経緯」「熊本地震と豪雨災害での避難所運営の実態」「民間が避難所運営を行う意義」についてお話いただきました.
 特に多くの学生が印象に残っていたのは,熊本地震のお話でした.当時,益城町総合運動場には多くの被災者が避難しており,住民や行政から「アリーナを避難所開放するように」との要請があったそうです.しかし,丸目さんは天板が落ちてくる可能性を予測し,アリーナを閉鎖.結果,本震でアリーナはほぼ全部の天板が落ちるほどの大きな被害を受け,結果として避難者の命を守られました.また,YMCAの強みを生かした子供や障がいをお持ちの方への配慮,食のコミュニケーション効果に関わるお話も大変興味深く,「施設運営者・避難所運営者が『災害に対する意識・知識』を養うこと」「『子供の教育・遊び』『食を通じた交流』の機会を確保すること」の重要性を学ばせていただきました.
 避難所環境について研究している学部生からは「丸目さんが避難所運営にあたって掲げていた『災害関連死を0にする』といった目標と,研究目的・背景との関連性を見いだせた」という声もあり,大きな収穫がありました.

HASSENBA HITOYOSHI KUMAGAWA

 「HASSENBA HITOYOSHI KUMAGAWA」は,100年以上の歴史を誇る観光のシンボル「球磨川くだり」の人吉発船場がリノベーションされ,ツアーデスク・カフェ・地元産品を取り扱ったお店などが一緒になった観光拠点施設です.熊本→人吉の長い移動の休憩として,パンケーキを頬張りつつ,球磨川沿いを散歩するご老人や下校中の学生など住民ののどかな生活風景の一端をみることができました.
 学年・性別にかかわらず仲が良いところが市古研の特徴です

本田節さん・防災食体験

 本田節さんは,地域の主婦による地産地消の農村レストランや,グリーンツーリズムを通じて,食育活動・農村ビジネス・コミュニティビジネス・女性の活躍推進を展開されている方です.令和2年7月豪雨災害では,ご自身も被災者でありながら,これまでの活動を活かして「在宅避難の方に向けたキッチンカーによる炊き出し」「支援物資の配布」「災害ボランティアへの宿泊場所や情報の提供」などを行われました.
 当日は,本田さんの活動内容を踏まえたディスカッションの後,防災食体験を行いました.防災食と聞くと,レトルトやα化米など備えておくことを想像される方が多いと思います.しかし,ここでの防災食づくりとは「いつか来る災害に備えて,普段の生活の中でどのように工夫できるのか」ということ. カセットボンベで使用できるホットプレートやコンロを用いて調理したり,味噌玉作りなど普段の作り置きとしても活用できるものなど…「普段の生活行動に『被災時にも行かせる要素』を無理なく取り入れること」や,今回のwsでやったことを,実際に家でもやってみるなど「たまにで良いから『防災』のための行動を起こすこと」が重要であると感じました.何より,本田さんのキャラクターが魅力的で,地域リーダーには「地域のため・人のために行動するという思い」「やりたいことへの実行力」「他人を引っ張り,場を盛り上げるコミュニケーション能力」の3点が特に重要になってくると思いました.また,丸目さんのお話の中で「食を通じた交流が一番効果的だった」とありましたが,それを体感できた大変貴重な機会にもなりました.
 本記事をご覧の方には,パワフルでハートフルな「せっちゃん」のもとをぜひ訪れていただきたいです!「みんなで食卓を囲むことの大切さと楽しさ」を実感できると思います.

2日目

渡小学校・千寿園跡

 坂本村に向かう途中で,令和2年7月豪雨災害で被災した渡小学校と千寿園跡地を訪問しました.千寿園は,球磨村で唯一の特別養護老人ホームでしたが,入所者の垂直避難が完了せず,14名が犠牲になりました.現在は建物が取り壊されていますが,隣接する渡小学校は被災後の状態が残されており,被害の大きさを目の当たりにしました.
 近年は少子高齢化の進行だけでなく,災害の激甚化も懸念されており,特養をはじめとした福祉施設・高齢者施設での災害対策は急務となっています.千寿園でも,住民の協力もあり56名の入所者は無事だったとのことで,早期避難が重要であるのはもちろんのこと,平時からの周辺住民との協力体制・避難を軽減できる技術の活用や建物配置など,ハードとソフトの両面での対策が必要になってくると感じました.

坂本町の道野真人さん・溝口隼平さん

 道野真人さんは,東京出身ですが,結婚を機に両親のルーツである坂本に移住されました.現在は「道の駅坂本」の駅長を務めると共に,ご自宅をDIYし,地域の人が利用できるコミュニティスペースとしての活用を図られています.道野さんからは,まず道の駅坂本にて,令和2年7月豪雨災害の被災状況と,球磨川流域全体の災害リスク・これからのあるべき姿についてお話を伺い,その後国内初のダム撤去事業が行われた荒瀬ダム跡地・坂本駅をはじめとした旧坂本村を散策しました.
 道の駅は,移設予定にあり現在の建物は解体される方向とのことでしたが,水害後の様子がそのまま残されていて,被害の大きさを目の当たりにしました.その中で,同じ流域でも令和2年7月豪雨災害の被害状況を把握していないエリアの方もいるということで「行政単位ではなく,流域単位での対応が必要」というお話は印象的でした.また「どの段階まで,何を戻すのかを考える必要がある」とも仰っており,一度災害による被害があった中で「将来のために多少の改善を加えていく」のか「過去に倣う」のか…街の将来を考えていくにあたり,なにを大事にして,だれが主導して進めていくのかが重要であることを改めて実感しました.
 続いて,溝口さんのご自宅にお邪魔しました.溝口隼平さんは,ダム撤去の研究をきっかけに,国内初のダム撤去事業が行われた八代市に移住し,球磨川におけるラフティング事業を中心に地域振興に携わっていらっしゃいます.溝口さんからは,令和2年7月豪雨災害被災時のリアルなお話・移住者として地域に入っていくことののやりがい・ダム撤去後の街の在り方についてお話をいただきました.特に,水害とダムの関係性ーダムによって水害リスクが高まるという点については,多くの学生が印象に残っていたようでした.
 お二人にお話を伺う中で,ルーツの有無はあれど,若い移住者が中心となって地域を思い活動しているのは,確実に地域の財産だと感じました.一方で,ずっと坂本に住み続けている人・移住者・ボランティア・役所・年代・性別など…属性・立場ごとに復興・まちへの考え方があり,各々の思いをどのように融合させてまちづくりに反映すれば良いのか,簡単には解決できない問題であり大変悩ましく思いました.今回はスケジュール上難しかったのですが,溝口さんのところでラフティング体験をして,ダム撤去後の地域の姿を川から体験してみたいです.

境目団地

 宇土市営境目団地災害公営住宅は,くまもとアートポリスプロジェクトとして取り組まれた災害公営住宅の完成第1号です.当該団地は,既存の市営住宅と隣接していることが最大の特徴で,住棟の向きを合わせたり,色彩計画における連続性が配慮されています.また,住戸内に入らなくてもコミュニケーションが取れる「アルコーブ」や,縁側を設けた集会所などが設置されており,多世帯が周囲とつながりを持てる工夫がなされていました.一方,ほかの公営住宅と比較して子供達が遊んでいる様子が印象的でもありました.既存の住民と公営住宅の住民がどのようにコミュニケーションをとって生活しているのかなど,市営住宅と隣接していることによって発生するメリットとデメリットについて検証の余地があると感じました.

火の国会議

 任意のメンバーで,「火の国会議」に参加させていただきました.火の国会議とは,くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD)が主催する,平成28年熊本地震や令和2年7月豪雨災害に関する支援団体・地域団体等の情報共有会議です.企業と連携した企画や,他の地域からの類似団体の視察もあるなど,熊本県内に限らない情報共有・人脈作りの場として大事な場になっていると感じ,貴重な機会となりました.

3日目

熊本城訪問

 任意のメンバーで,早起きして熊本城を訪問しました(執筆者は寝坊).リニューアルされた部分もあり,内外で綺麗な姿が見られました.一方で石垣の一部が崩れているなど,未だに熊本地震の影響が色濃く残る部分も.文化・観光資源として,そして遺構としても,貴重な存在になっていました.水曜日の朝10:00頃でしたが,観光客の姿も.偉大な存在でした.

益城町中心部

 熊本地震の際,建物倒壊をはじめ被害の大きかった益城地区を訪れ,実際に復興過程にある街並みの視察や,震災時に避難所としての利用が検討された総合体育館の視察をしました.益城町は震災以前から熊本市のベッドタウンとして機能しており,住民も多く人口も増加傾向です.この傾向は震災後も続いています.熊本地震では多くの建物が半壊・全壊となり,建て替えとなりました.それと同時に,住むエリアとして需要が高いこともあり,建物更新や道路の拡幅,公園の整備などが進められており,新たな魅力ある街並みが創られていました.地方都市の震災復興の姿として,道路整備や住宅再建における一つのモデルケースになりうるのではないかと感じました.
 益城町の街並み.道路整備で綺麗で広い道路が実現し,住宅も各戸広い区画の中で建て替わっています.

西原村大切畑,古閑集落

 益城町の次は,西原村の大切畑地区・古閑地区を訪問しました.熊本中心街から車で40~50分,益城の住宅街とは異なり,農村風景が広がる地域です.ただ熊本地震によって建物被害が大きかったことに変わりはなく,建て替わったであろう住宅が多く見られました.また住宅と共に集会場(みんなの家)も新しく建てられており,使用感がありながら綺麗な状態に保たれていました.震災後はこのみんなの家に住民が寄り合ってまちづくりを進めていたという事もあり,大切に大事に使われている印象でした.そして西原村大切畑地区において何より印象深かったのは,空き家空き地がやや目立ったことと,コンクリートの擁壁が農村風景の中で際立っていた点です.これらの点については,市古先生はじめ研究室メンバーとしても大きな問題意識を感じ,この後の佐々木さんとの意見交換においても議論されました.農村の景観に,防災対策として白い擁壁が大きく入ってきていることについて,住民はどのように考えているのだろうかと深く考えさせられます.
 農村風景の中に,新興住宅街のような光景.震災前は人口も微増傾向でした.古くからの住民は,この風景をどう捉えているのでしょうか.

益城町 復興まちづくりセンターにじいろ訪問・佐々木さん

 熊本調査の〆は,益城町に戻り復興まちづくりセンターにじいろ訪問・佐々木康彦さんとの意見交換です.「~にじいろ」は,2016年熊本地震の被害状況やその後の復興の様子を伝承する貴重な施設となっていました.佐々木さんは都市計画コンサルタントとして2005年中越地震における農村の復興に携わっており,熊本地震においても「官民連携の復興」をテーマに,大切畑地区など6地区の集落復興に携わりました.現在はNPO法人「故郷復興熊本研究所」の理事長を務めています.佐々木さんとの意見交換では,集落の復興において住民一人一人の想いがある中での再生の難しさ,事業制度との兼ね合いなど,プレイヤーとしての苦悩をひしひしと感じました.また大切畑地区ではみんなの家での住民会合の回数は60回を超えたとか.これは佐々木さんの活動力,集落復興への想いやノウハウがあってこそであると感じました.中越においても熊本においても「集落の住民の戻りは7割」というお話もあり,その中で景観を含めてどのような集落復興が成されるべきなのか,考えさせられた一日でした.

【まとめ】

 改めて3日間の熊本調査を振り返ると,とにかく密度の濃い3日間であったなと感じました.初日の朝から3日目の羽田帰還まで本当に休む暇なく,3日目の昼食なんかは移動中の車内でコンビニのおにぎりをむさぼっていました.しかしその分,過去にないほど学びの多い調査となりました.水資源との向き合い方,避難所設営・運営,食,生活再建,集落復興など,本当に様々な角度から改めて「災害復興」を学ぶ機会となりました.またヒアリングさせていただいた方たちは,皆さんまちや地域に対して強い想いを持って驚くほどエネルギッシュに活動されており,尊敬と憧れを抱きました.総じて,フィールドワークを大切にしている市古研究室らしい調査だったなと感じています.また,卒業となったB4生・M2生にとっては研究室としては実質最後の活動となりました.ご卒業・ご進学おめでとうございました!

【研究室メンバーからのコメント】

  • 溝口さんのお話はかなりのボリューム感で,治水のためのダムが結果的に水害を引き起こしていることはとても驚きました.固定概念ではなく,個々の事例や状況を見ないと問題の本質は見えてこないのではないかと感じました(新M2,K.I)
  • 行政と住民側での方向性の違いについては現地のリアルな課題をお話いただいたな,と感じ,かなり印象に残っています.住民主体で思いを実際にまちづくりに反映するにはどうすれば良いのか,簡単には解決できない問題であり大変悩ましく思いました.「行政単位ではなく,流域単位での対応が必要」というお話については,個人的に目から鱗であり,自分の視野の狭さも実感しました.「景観・地域らしさと安全性の両立」は,私の修論や,東日本大震災の津波被災地とも通ずる点があり,復興まちづくりや防災まちづくりにおける大きな課題であると感じました.官民学で連携を図りながら,今後あの風景を前向きな歴史として捉えられる施策や活動が展開していけたら良いと思いました.(新M2,C.M)
  • 防災食の印象を覆され,火さえあればできるレシピは教わったもの以外にもまだまだありそうだなと思ったので,自分でも色々挑戦してしてみたい.せっちゃんの人を巻き込むパワー,圧巻(前B4 M.T)
  • 調査を通して,熊本のパワフルさに触れた気がします.お話を聞いた方々は,地域をよりよくしようと思って動いている方ばかりで,熱い思いを感じました.復興の過程というよりか,災害前の状態以上により良いものを目指しているなと思いました.なんというか,「成長」見たいな感じ(新B4,H.W)
  • 今回の熊本調査では,民間による避難所の運営や防災食など,これまで災害対応について一度も考えたことのない新しい観点から眺めることができる良い勉強の機会となった.もちろん私は100%賛成する立場ではないが,正誤とは別に災難対応という観点では十分に考えてみる必要があると考えられる(研究生,S.R)
 最後まで読んでくださった方,ありがとうございました☆
 そして幹事,何から何まで本当にありがとうです!お疲れさまでした!!