災害調査」タグアーカイブ

能登復興調査報告:ほくみ基金・制服バンク・金蔵百歳体操(7/29-30) 

 こんにちは.市古研究室学部4年の佐藤,澤渡です.2026年7月29日から30日にかけて行った金沢・能登調査についてご報告します.一日目は金沢を訪れ,ほくりくみらい基金と,同基金とも関わりを持つ制服バンクの方々にお話を伺いました.

ほくりくみらい基金でのインタビュー
 まず,ほくりくみらい基金の方にお話を伺いました.
 私はこれまで,能登半島地震からの復興において,行政や被災地域の住民だけではなく,地域のさまざまな主体の間に立って活動する「中間支援組織」がどのような役割を果たしているのかに注目してきました.
そのなかでも,ほくりくみらい基金は,地域で活動する団体に対して資金面から支えるだけではなく,活動を継続していくための伴走にも取り組んでいます.
 今回のインタビューでは,こうした活動が始まった背景や,地域で活動する団体とどのような関係を築いているのかについて,詳しくお話を伺いました.
 特に印象に残ったのは,復興に必要なのは,単に「お金を渡すこと」だけではないということです.
地域で活動する人たちが抱える課題は,それぞれ異なります.資金が必要な場合もあれば,活動について相談できる相手が必要な場合,あるいは自分たちだけではつながることのできない人や団体とのつながりが必要な場合もあります.だからこそ,中間支援組織には,資金を提供するだけではなく,活動する人たちの状況を理解し,必要な支援を一緒に考えていく「伴走者」としての役割があるのだと感じました.
私が研究で着目している「あたたかなお金の循環」という考え方についても,今回のインタビューを通して,自分の仮説をもとに永井さんに想いを語っていただいたことで,さらに深い考察へと繋げることができたと感じています.

NPO制服バンク石川さまへのインタビュ
 続いて,制服バンクの方にもお話を伺いました.
 制服バンクは,使われなくなった制服を必要とする人につなぐ活動を行っています.今回の調査では,こうした地域に根差した活動が,能登半島地震からの復興という大きな出来事のなかでどのように支えられ,また周囲との関係を築きながら活動しているのかについてお話を伺いました.
 実際に活動されている方のお話を直接聞くことで,資料を読むだけでは分からない,現場で活動する人の思いや悩み,そして活動を続けていくために必要な支援について考えることができました.
また,ほくりくみらい基金と制服バンク,それぞれのお話を伺ったことで,支援する側と支援を受ける側という単純な関係ではなく,それぞれの主体がつながりながら地域の課題に向き合っていることが見えてきました.
 今回のインタビューを通して,私が研究対象としている「中間支援」は,組織と組織の間を単に取り持つだけの存在ではなく,地域で活動する人たちの思いを受け止め,それを次の活動や新たなつながりにつないでいく役割を担っているのだと改めて感じました.
 実際に活動している方から直接お話を伺うことで,活動の背景にある考え方や,日々の関係づくりの積み重ねをより具体的に知ることができました.復興という言葉だけでは捉えきれない,一人ひとりの活動や思い.その間をつなぎ,必要なところへ資金や人,情報を届けていく中間支援の存在.さらに学びが深まる調査一日目となりました.

輪島市金蔵集落:百歳体操と集会所カフェ
 二日目は,輪島市町野町にある金蔵集落を訪れ,10年以上続いている地域の集まり「100歳体操」と,能登半島地震の発災後に始まった「集会所カフェ」を見学させていただきました.どちらも毎週木曜日に開催されており,この日は15名の住民の方が参加されていました.
 100歳体操では,YouTubeの見本動画に合わせて約30分間体を動かします.準備運動のストレッチから筋力トレーニング,整理運動までしっかり組み込まれていて,思っていた以上に本格的.私たちも一緒に参加しましたが,普段の運動不足を痛感しました.
 体操が終わると,続いて「集会所カフェ」の時間です.椅子を片付けて机を並べ,おやつを準備するまでの流れはとてもスムーズで,皆さんが自然と役割分担をしながら動いている姿が印象的でした.普段はたこ焼きを作るそうですが,7〜9月は暑さを考慮してアイスクリームに変更しているとのこと.当日は畑で採れたスイカを差し入れしてくださった方もいて,アイスクリームとスイカを囲んだ,とてもにぎやかなお茶会となりました.
 体操が始まる20分ほど前から住民の方が続々と集まり始めます.「先週来なかったけどどうしたの?」「風邪は治った?」「髪の毛切ったのね」といった声が自然に飛び交い,お互いを気に掛け合う温かい雰囲気が感じられました.
 集会所カフェでは,この一週間にあった出来事や畑仕事の話,野菜づくりのコツなど,日常の話題で会話が弾みます.「昨日は○○で火事があったらしいよ」「○○さんが亡くなったそうだね」といった地域の出来事も共有されており,住民同士が情報を交換する大切な場にもなっていました.
 今回の見学を通して,改めて金蔵の皆さんの元気さと温かさを感じることができました.私自身は情けないことに,30分の体操だけで筋肉痛になってしまいましたが,毎週この体操を続けている皆さんのパワフルさには驚かされるばかりです.
 何気ないおしゃべりや一緒に体を動かす時間が,人と人とのつながりを育み,地域の安心感につながっていることを実感した,とても充実した一日でした.

能登復興調査報告:穴水町甲地区を訪ねて(7/12-13)

 こんにちは,市古研究室修士1年の前田ことみです.7月12日から13日にかけて能登へ復興調査に行ってきましたので,そのご報告を兼ねて執筆します.
 今回の主目的は,修士論文のフィールドとして検討している穴水町甲(かぶと)地区の下見とプレ調査です.


なぜ甲地区なのか
 
東日本大震災の被災地である福島県いわき市出身の私は,物心がついたときから災害からの復興を目の当たりにしてきました.学部時代には,住民の地域に対する誇りを示す「シビックプライド」に関心をもち,震災による景観変容によって住民のシビックプライドに変容はみられるのだろうか,という問いを抱くようになりました.
 そのうえで甲地区をフィールドに選んだ理由は,以下の三点です.
1)甲復興団という復興を支える拠点が明確にあり,目に見える形で復興が進んでいること
2)①とも関わって,震災前と震災後,震災直後と現在という時点間のまちの変容が捉えやすいこと
3) 昨年度の卒業生が同地区をフィールドに研究しており研究室にデータの蓄積があることに加え,住民の方々が外部の人間を積極的に受け入れてくださる環境が整っていること
 甲復興団とは,2024年1月1日に発生した能登半島地震をきっかけに,甲地区の復旧・復興を目指して立ち上げられた任意団体です.同じ小学校の同窓生らを中心としたメンバーで構成され,全員がプロボノ(専門知識やスキルを活かしたボランティア)として活動に参画しています.震災により離れ離れになった住民同士が温かく集い,心のサポートや地域のつながりを取り戻すための「甲復興カフェ」を定期開催しているほか,のと鉄道の廃線に伴い残された旧甲駅舎を地域内外の人々が集うコミュニティハウスへと修繕・改装し,雇用と活気を生み出す「甲駅食堂」プロジェクトを推進しています.さらに,買い物の利便性向上や産業の活性化,外部の支援ボランティアとのマッチング,季節のイベント企画などを通じて,地域住民が安心・安全に,そして持続可能に暮らせる甲地区の復興と自立を目指し,多角的に活動しています.
 今回の調査では,具体的に以下の二点を目的としました.
1)復興の途中にある甲地区で,更地・仮設・再開した営み・戻りつつある日常などが重なって見える「復興過程の風景」を記録し,この場所が今どういう状態にあるのかを捉えること
2)人が集まる復興の現場でもある復興カフェへの訪問を通じて,誰が集い,どんな会話があり,どんな空気が流れているかを,自分の目で見て,耳で聞くこと

1日目:復興カフェと「地域だれでも飲み会」
 能登に足を運ぶのは今回が2回目,甲地区の訪問は初めてだったので,不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで羽田空港をあとにしました.
 12日午前10時前,私たち一行は「のと里山ポケモンウィズユー空港」に着陸しました.実は能登空港は,7月7日より震災復興支援を目的に,期間限定で世界初のポケモンの名を冠した空港としてリニューアルオープンしたそうです.オープン直後の週末には人出が前年同期比で約6倍,開港1週間で来場者数が4倍超を記録するなど,絶大な反響を呼んでいるとのこと.ポケモンの影響力,おそるべし.
 空港から車で約30分,穴水町甲地区へ移動.猛暑を覚悟していたものの過ごしやすい気温で,まさに調査日和でした.到着後は海沿いの黒崎周辺で,土地と建物の利用状況を調査しながら周辺を探索しました.
 この日は曽良公民館と甲公民館の2か所で復興カフェが開かれており,まず曽良公民館へ向かいました.曽良でのメインは「ブンブンボウル」さんの漫才です.ブンブンボウルさんは白山市出身で,「よしもと石川県住みます芸人」として活動されており,震災後は復興応援フェアや88フェスなどにも出演されているそうです.今回の復興カフェでも地元ネタを交えた漫才を披露してくださり,私自身もとても楽しい気持ちになりました.周りの方も皆さん笑顔で,「今回も面白かったね」という声が口々に聞こえてきました.会場では200円でアイスとコーヒーを提供する「200円カフェ」が開かれ,入り口ではキッチンカーでの販売もありました.
 その後,上映会が行われていた甲公民館へ向かい,上映会後に甲復興団の方々にご挨拶をしました.
18時頃からは,甲で浜出産業として事業をされている浜出さんのお宅にお邪魔し,「地域だれでも飲み会」に参加しました.甲の未来について熱く語り合う甲復興団のみなさまの姿に,大いに触発されました.
 この日は「甲ガーデンファーム」というヤギの農家民宿に滞在しました.カーテンを開けると窓の外にヤギがたくさん見えるのがなんとも新鮮で,翌朝にはヘルシーな朝ごはんと,ヤギミルクを使ったチーズケーキをいただきました.

2日目:集落の悉皆調査と門前町訪問
 
2日目は気合を入れて朝4時50分に起床し,6時前には調査に出発しました.朝の甲の空気はとても綺麗で気持ちがよかったです.昼前までの時間を使い,甲地区集落の土地と建物の利用状況を調べあげました.午後は門前町を訪問しました.

調査を終えて
 今回の調査を通しての率直な感想は,まず,外から来た人間の話にこんなにも素直に耳を傾け,受け入れてもらえるものなのだな,ということでした.震災という大きな災害でまちが大きく変わってしまったからこそ,「自分たちの力で,自分たちの考えで」という思いが先行しているものだと思い込んでいたのですが,当時のこと,これまでの復興過程のこと,復興団の現状など,貴重なお話を積極的にしていただけたことが嬉しかったです.
 加えて,発災から2年半が経った今初めて訪れたからこそ感じたものかもしれませんが,甲の方々は「震災」という大きな出来事をとても前向きに捉えている印象を受けました.もちろん当時は,大切な人やもの,場所を失い,悲しみに暮れた方がたくさんいらっしゃったはずです.それでも,復興団の方々の熱い思いのぶつけ合い,外部から来た人間との協働の姿勢,ブンブンボウルさんの漫才のような笑顔を増やす取り組みからは,能登の未来のために前向きに復興へ取り組んでいこうという強い意志が感じられました.私にとって,大きなエネルギーをもらえた2日間でした.
 フィールドワークを通じては,この集落には花壇・自家農園・生垣をはじめとした家庭菜園が多いこと(小さなビニールハウスが特に多いこと),そしてあちこちに玉ねぎがつるされていることが印象に残りました.玉ねぎをつるすのは,豪雪地帯で長持ちさせるための知恵だそうですが,では,家庭菜園の多さはどのような意味をもつのでしょうか.
 フィールドワーク中,庭の綺麗な花壇のお手入れをされている高齢の方にお話を伺う機会がありました.その際,「こうやって(花や作物が)育つのをみるのが今の人生の楽しみ」という言葉をいただきました.住民の方々にとって,菜園のもつ意味はとても大きいようです.この「家庭菜園のなす意味」が,私のリサーチクエスチョンの出発点になりそうです.
 今回の訪問を通して,この集落で調査をしたい,この集落で修士論文を書きたい,という思いを強くしました.また甲を訪れる日が待ち遠しいです.

那珂川水戸市域の流域防災調査

 こんにちは!学部3年の片根です.先日,学部生・院生合わせて6人で水戸調査に行ってきました.茨城県水戸市は,私の出身地で,卒業研究の対象地としているため,研究室メンバーにもご協力をいただき,訪問しました.初めて水戸に来た,というメンバーも何名かいたようです.水戸市役所へのインタビュー調査を通して,令和元年台風19号水害時の対応やその後の防災対策をより深く学ぶことができました.

 1日目は,茨城,そして水戸を知るということで,茨城県大洗水族館や那珂湊市場など海岸周辺を観光しつつ,大洗サンビーチにある津波避難施設を見学しました.施設の中には入れませんでしたが,実際に見ることで,海からの距離や施設の高さなどを確かめることができました.その後,水戸方面に戻ってきて,水戸芸術館や偕楽園などを訪れました.水戸の街並み,雰囲気,改めて良いなと思った一日でした.

 2日目は,午前中に水戸市役所にインタビュー調査に伺い,午後,水戸市内の那珂川周辺を現地調査する,という流れでした.インタビュー調査では,水戸市役所の職員の方に,事前にメールにてお送りした調査内容を中心にお答えいただきました.インタビュー調査の中で特に印象的だったことは,台風19号の避難の際に,水戸市役所の方が,避難行動要支援者(高齢者など)の家を一軒一軒訪ね,避難を呼びかけ,さらに車で避難所まで送り届けた,という支援の手厚さです.このような対応をしている自治体は聞いたことがなかったため,とても驚きました.研究室メンバーも,市役所の方と積極的に意見交換をしていて,とても良いインタビュー調査になりました.

 午後の現地調査では,ハザードマップを持って,水戸市内の那珂川沿岸を調査しました.ハザードマップで示されている水害の浸水範囲と現地の様子を見比べたり,避難所の位置関係を確かめたりしました.4年前,私は災害ボランティアとして現地を訪れていたので,穏やかな那珂川を見て,当時の様子を思い出し,改めて水害の恐ろしさを感じました.

 最後に,参加したメンバーの感想を紹介します.

  • 市役所の方のお話を聞いて,災害が来ることも知ったうえで,この土地を選んで住んでいるということがとても印象に残っています.そのような方々に避難の初動をどう早めてもらうかというところが大きな課題だと感じました(B3, H.W.さん)
  • 行政職員が自ら動いて非難行動要支援者の救出に向かったことと,台風19号の被害の大きさに対して死者0人で済んだことが驚きであった.水戸市の防災対策の厚さは,市長の思い入れの強さゆえとのことだったが,水戸市の行政や市民性など歴史的な特性が上記の行政対応や被害を抑えた要因になっている可能性があると思った(M1, C.Y.さん)

 今回の調査を通して,水戸市の防災活動や自主防災組織の実態を知る事が出来ました.調査で見聞きしたことをもとに,卒業研究をさらに深めていきたいと思っています.