こんにちは,市古研究室修士1年の前田ことみです.7月12日から13日にかけて能登へ復興調査に行ってきましたので,そのご報告を兼ねて執筆します.
今回の主目的は,修士論文のフィールドとして検討している穴水町甲(かぶと)地区の下見とプレ調査です.
なぜ甲地区なのか
東日本大震災の被災地である福島県いわき市出身の私は,物心がついたときから災害からの復興を目の当たりにしてきました.学部時代には,住民の地域に対する誇りを示す「シビックプライド」に関心をもち,震災による景観変容によって住民のシビックプライドに変容はみられるのだろうか,という問いを抱くようになりました.
そのうえで甲地区をフィールドに選んだ理由は,以下の三点です.
1)甲復興団という復興を支える拠点が明確にあり,目に見える形で復興が進んでいること
2)①とも関わって,震災前と震災後,震災直後と現在という時点間のまちの変容が捉えやすいこと
3) 昨年度の卒業生が同地区をフィールドに研究しており研究室にデータの蓄積があることに加え,住民の方々が外部の人間を積極的に受け入れてくださる環境が整っていること
甲復興団とは,2024年1月1日に発生した能登半島地震をきっかけに,甲地区の復旧・復興を目指して立ち上げられた任意団体です.同じ小学校の同窓生らを中心としたメンバーで構成され,全員がプロボノ(専門知識やスキルを活かしたボランティア)として活動に参画しています.震災により離れ離れになった住民同士が温かく集い,心のサポートや地域のつながりを取り戻すための「甲復興カフェ」を定期開催しているほか,のと鉄道の廃線に伴い残された旧甲駅舎を地域内外の人々が集うコミュニティハウスへと修繕・改装し,雇用と活気を生み出す「甲駅食堂」プロジェクトを推進しています.さらに,買い物の利便性向上や産業の活性化,外部の支援ボランティアとのマッチング,季節のイベント企画などを通じて,地域住民が安心・安全に,そして持続可能に暮らせる甲地区の復興と自立を目指し,多角的に活動しています.
今回の調査では,具体的に以下の二点を目的としました.
1)復興の途中にある甲地区で,更地・仮設・再開した営み・戻りつつある日常などが重なって見える「復興過程の風景」を記録し,この場所が今どういう状態にあるのかを捉えること
2)人が集まる復興の現場でもある復興カフェへの訪問を通じて,誰が集い,どんな会話があり,どんな空気が流れているかを,自分の目で見て,耳で聞くこと
1日目:復興カフェと「地域だれでも飲み会」
能登に足を運ぶのは今回が2回目,甲地区の訪問は初めてだったので,不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで羽田空港をあとにしました.
12日午前10時前,私たち一行は「のと里山ポケモンウィズユー空港」に着陸しました.実は能登空港は,7月7日より震災復興支援を目的に,期間限定で世界初のポケモンの名を冠した空港としてリニューアルオープンしたそうです.オープン直後の週末には人出が前年同期比で約6倍,開港1週間で来場者数が4倍超を記録するなど,絶大な反響を呼んでいるとのこと.ポケモンの影響力,おそるべし.
空港から車で約30分,穴水町甲地区へ移動.猛暑を覚悟していたものの過ごしやすい気温で,まさに調査日和でした.到着後は海沿いの黒崎周辺で,土地と建物の利用状況を調査しながら周辺を探索しました.
この日は曽良公民館と甲公民館の2か所で復興カフェが開かれており,まず曽良公民館へ向かいました.曽良でのメインは「ブンブンボウル」さんの漫才です.ブンブンボウルさんは白山市出身で,「よしもと石川県住みます芸人」として活動されており,震災後は復興応援フェアや88フェスなどにも出演されているそうです.今回の復興カフェでも地元ネタを交えた漫才を披露してくださり,私自身もとても楽しい気持ちになりました.周りの方も皆さん笑顔で,「今回も面白かったね」という声が口々に聞こえてきました.会場では200円でアイスとコーヒーを提供する「200円カフェ」が開かれ,入り口ではキッチンカーでの販売もありました.
その後,上映会が行われていた甲公民館へ向かい,上映会後に甲復興団の方々にご挨拶をしました.
18時頃からは,甲で浜出産業として事業をされている浜出さんのお宅にお邪魔し,「地域だれでも飲み会」に参加しました.甲の未来について熱く語り合う甲復興団のみなさまの姿に,大いに触発されました.
この日は「甲ガーデンファーム」というヤギの農家民宿に滞在しました.カーテンを開けると窓の外にヤギがたくさん見えるのがなんとも新鮮で,翌朝にはヘルシーな朝ごはんと,ヤギミルクを使ったチーズケーキをいただきました.
2日目:集落の悉皆調査と門前町訪問
2日目は気合を入れて朝4時50分に起床し,6時前には調査に出発しました.朝の甲の空気はとても綺麗で気持ちがよかったです.昼前までの時間を使い,甲地区集落の土地と建物の利用状況を調べあげました.午後は門前町を訪問しました.
調査を終えて
今回の調査を通しての率直な感想は,まず,外から来た人間の話にこんなにも素直に耳を傾け,受け入れてもらえるものなのだな,ということでした.震災という大きな災害でまちが大きく変わってしまったからこそ,「自分たちの力で,自分たちの考えで」という思いが先行しているものだと思い込んでいたのですが,当時のこと,これまでの復興過程のこと,復興団の現状など,貴重なお話を積極的にしていただけたことが嬉しかったです.
加えて,発災から2年半が経った今初めて訪れたからこそ感じたものかもしれませんが,甲の方々は「震災」という大きな出来事をとても前向きに捉えている印象を受けました.もちろん当時は,大切な人やもの,場所を失い,悲しみに暮れた方がたくさんいらっしゃったはずです.それでも,復興団の方々の熱い思いのぶつけ合い,外部から来た人間との協働の姿勢,ブンブンボウルさんの漫才のような笑顔を増やす取り組みからは,能登の未来のために前向きに復興へ取り組んでいこうという強い意志が感じられました.私にとって,大きなエネルギーをもらえた2日間でした.
フィールドワークを通じては,この集落には花壇・自家農園・生垣をはじめとした家庭菜園が多いこと(小さなビニールハウスが特に多いこと),そしてあちこちに玉ねぎがつるされていることが印象に残りました.玉ねぎをつるすのは,豪雪地帯で長持ちさせるための知恵だそうですが,では,家庭菜園の多さはどのような意味をもつのでしょうか.
フィールドワーク中,庭の綺麗な花壇のお手入れをされている高齢の方にお話を伺う機会がありました.その際,「こうやって(花や作物が)育つのをみるのが今の人生の楽しみ」という言葉をいただきました.住民の方々にとって,菜園のもつ意味はとても大きいようです.この「家庭菜園のなす意味」が,私のリサーチクエスチョンの出発点になりそうです.
今回の訪問を通して,この集落で調査をしたい,この集落で修士論文を書きたい,という思いを強くしました.また甲を訪れる日が待ち遠しいです.



